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2011年7月20日 (水)

『創世記』(旧約聖書)

『創世記』の成立は、紀元前10世紀から紀元前5世紀の500年間をかけて、
パレスチナを中心としたユダヤ民族によってまとめられていったものとされている。

仏教最古の古典『ベーダ聖典』の成立が紀元前2世紀頃、
イスラム教の聖典『コーラン』の成立が7世紀頃だから、
『創世記』の成立の早さがよくわかる。

天地創造から始まり、エデンの園を追われたアダムとイブ、弟アベルを手にかけたカイン、
大地を覆い尽くす洪水から逃れたノアの箱船、人と人が交わす言葉を奪われたバベルの塔、
神の怒りに触れて滅ぼされたソドム……、一つひとつの物語が淡々と綴られていく。

人は神に似せられて創られ、神になることを許されない存在である。
知恵の実を口にすることで楽園を追われ、神になろうとする試みは悉く潰される。
『創世記』の人間観は、基本的に否定的なものである。
それを集約させたのが「原罪」という概念だ。

創造主である神と人の闘いは、
人が神を超えられない存在と認め、神を崇め祀る契約を結ぶしかない。
テラの子アブラムは神からさまざまな試練を受け、
多くの国民の父を意味するアブラハムと名付けられ、神からこう告げられる。

「君たちすべての男は、みな割礼を受けるべきである。
君たちは、その陽の肉を切るべきである。これが私と君たちの間の契約の証になる。
(中略)私の契約は君たちの肉に印されて、永遠の契約となる」

99歳のアブラハムは90歳の正妻サラとの間に長子イサクを生み、
イサクの系譜が大地に満ちていくことになる。
神との契約は人の存在の限界を設定すると共に、人の世界の中での正統性を裏付ける。
神と契約を結ばない異民族は、滅ぼされるべき運命にある。

『創世記』の描く世界は、灼熱の太陽と乾いた大地に象徴され、人と人は常に争う。
奪わねば生き延びられない状況で、人は掟を守るために神を必要とした。
絶対的存在から否定されないために、論理に基づく契約を尊重せざるを得なかった。
ここに西洋の原風景がある。

仏教を中心とした融和的な発想の中で育った私たちは、
しばしば欧米人の対立的なものの見方考え方に惑わされるが、
論理を積み重ねてその背景を理解すれば真意は伝わる。

神との契約を背景に発展したのが欧米の文化である。
『創世記』にはそれを読み解くヒントが秘められている。

宗教に興味を持たずとも、欧米の文化や思想に近づこうとするなら、
『創世記』を手がかりとして、『旧約聖書』『新約聖書』は必読である。

欧米人の意識の原型がどのように形づくられていったのか、
それがわからなければコミュニケーションは成り立たない。

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