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2011年7月 7日 (木)

『学問のすすめ』(福沢諭吉)

財布の中にご尊顔を拝すると、思わず手を合わせたくなる福沢諭吉だが、
豊前中津藩の大坂蔵屋敷で生まれ、幼い頃に父を失い、
「門閥制度は親の仇」と語ったように、溢れる才能を活かしきれない青春を過ごしている。

藩命で緒方洪庵の適塾に学び、幕臣として欧米に派遣されているのだから、
能力を開花させる環境には恵まれていた。

上野の山で彰義隊と官軍が血みどろで闘っていたときに、
諭吉は平然と経済学の講義を続けたという逸話が残されているが、
江戸幕府でも明治政府でも主流派になれない自らを思い、
独自の道を切り開く覚悟を胸に秘めていたに違いない。

維新前夜に著した『西洋事情』を皮切りに、
『学問のすすめ』『文明論之概略』『福翁自伝』と諭吉は著作活動を展開し、
新しい文化と思想を日本に根づかせていった。

とりわけ『学問のすすめ』は20万部を超えるベストセラーになり、
当時の知識人に強い影響を及ぼした。

「人は学ばなければ智恵がない。智恵がなければ愚かな人になる。
智恵のある人と愚かな人の差は、学ぶか学ばないかによって分かれてしまう」

「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」という言葉で知られた諭吉だから、
人間は本来平等と考えている。
それでも金持ちと貧乏人に分かれてしまうのは、学ぼうとする意欲の違いと主張する。
人生の成功は努力しだいというわけだ。

「文字を読むことだけを学問と考えるのは心得違いだ。
文字は学問をするための道具であって、家を建てるのに鋸や槌を使うのと同じ」であり、
「古事記を暗唱できても、今日の米の相場を知らない人は、
世間の学問を知らない人と言うべき」ということになる。

「夏の夜に自分の身体に酒を注いで蚊に食われ、親に近づく蚊を防ぐよりも、
酒を買う金があるなら蚊帳を買うのが智恵のある人だ」とは、
朱子学の代表的な忠孝の故事を皮肉り、従来の思い込みを合理的な論理で説き伏せている。
理屈に合わないことを、諭吉は決して認めない。

諭吉は慶應義塾大学の創始者としても知られるが、
成功した文化人として箱をつくったわけではない。建学の目的は、
「天の道理に基づき、人の情けに従い、他人の妨げにならないで、自分自身の自由に達する」

「人類多しといえども、鬼にもあらず蛇にもあらず。
恐れ憚ることなく心事を丸出しにして、さっさと応援すればいい」と場を提供する。

『学問のすすめ』の末尾が、
「人にして人を毛嫌いするなかれ」という言葉で締められているのは、
未来を信じることに情熱を燃やした福沢諭吉のホンネである。

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