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2011年7月28日 (木)

『コモン・センス』(トーマス・ペイン)

日本語に直訳すれば「常識」と題されるこの書物は、
アメリカに250万人しか暮らしていなかった18世紀後半、
50万部を超える大ベストセラーになった。

何と国民の5人に1人が読んだ計算になり、
独立戦争へのモチベーションを強く刺激した。

著者のトーマス・ペインは、1737年にイギリスで生まれたが、
仕事もうまくいかず結婚にも2度失敗し、
恵まれた人生を送ってきたわけではなかった。

ところが37歳のときにB・フランクリンと出会い、
その後の運命が大きく揺り動かされる。

フランクリンの勧めでフィラデルフィアに移り、
「ペンシルヴェニア・マガジン」の編集に携わることで、
彼は急激な時代の変化に真正面から向かい合わざるを得なかった。

当時のアメリカはイギリスの植民地で、
ボストン茶会事件に象徴される本国との対立が激化していた。

ペインは時代の流れを敏感に嗅ぎ分け、アメリカの独立を予感し確信した。
その思いを誌面に刻み込み、やがてまとめられたのが『コモン・センス』である。
独立の必然性を訴えたその内容は、大衆とりわけ最前線で戦う兵士たちを鼓舞した。

『独立宣言』を起草したジェファーソンにも影響を及ぼしたというのだから、
ペインの主張がアメリカ国民の総意となったのも頷ける。
独立戦争で民兵隊に志願したペインは、
その従軍経験を『アメリカの危機』として著し、国内で不動の地歩を築いた。

ところが彼はそれだけで飽きたらず、
フランス革命前夜に『人間の権利』を刊行し、フランス革命を擁護した。
しかし革命後の反革命とナポレオンの台頭により、
ペインは失意の中で帰国せざるを得ず、1809年に72歳の人生を閉じた。

「安全こそが政府の真の意図であり目的でもあるので、
最もよく安全を確保し、最小の費用で最大の幸福をもたらしてくれる政府が、
国民にとって何より必要である」

ペインが説く小さな政府の必要性が、
今では大国アメリカを鋭く切り裂くメスになっているのも、
皮肉な時代の流れに思えてならない。

「今や独立がよいかどうかを議論すべきではなく、
しっかりと安全な、しかも名誉ある基盤のうえにそれを達成することを切望し、
むしろその事業に着手していないことを心配すべきだ」

すべてのアジテーションは感覚に訴え、読む人の思考力を奪い行動へ追い詰める。
ペインの筆致は攻撃的であり、冷静で客観的な検証を許さない。

歴史的遺産として位置付けられる『コモン・センス』だが、
それがベストセラーに押し上げられるプロセスは、
今も昔も変わらない大衆の力強さに支えられていた。

どのような意見が多くの人の賛意を得られるのか、私たちに示唆するところは大きい。

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