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2011年7月30日 (土)

『賃労働と資本』(カール・マルクス)

資本主義社会に対するアンチテーゼとして科学的社会主義を提唱したK・マルクスは、
F・エンゲルスとの共著『共産党宣言』で、20世紀の思想哲学に揺るぎない地歩を築く。
否定するにせよ、肯定するにせよ、避けては通れない大きな存在である。

マルクスは1818年にドイツのトリールで生まれ、
ボン大学からベルリン大学へ学び、ヘーゲル哲学を中心に、法学や歴史学を修めた。
大学卒業後は唯物論の先駆者として知られるフォイエルバッハの影響を強く受ける。

1842年に刊行された「ライン新聞」に、最初は寄稿者として関わるが、
後に主筆となって健筆を振るい、政府から睨まれて廃刊のやむなきに至る。

1843年に生涯の盟友となるエンゲルスと出会い、
翌々年に名著として知られる『ドイツイデオロギー』を共同で執筆。
この間に『経済学哲学手稿』も刊行され、共産主義者としての方向が固まっていく。

48年に刊行された『共産党宣言』は、
マルクスとエンゲルスの思想拠点を明らかにした。
マルクスは自らを労働者階級として位置付けた。

エンゲルスと共に精力的な執筆活動を展開したマルクスは、
1883年にロンドンで生涯を閉じる。

その後にエンゲルスによって遺稿の中から『資本論』がまとめられ、
カウツキーによって『剰余価値学説史』がまとめられ、
マルクスの経済観は不動の地位を築いた。

『賃労働と資本』は、マルクスが書いた経済学の入門書である。
1847年にブリュッセルのドイツ人労働者協会での講演を「新ライン新聞」に連載し、
それから広い範囲でパンフレットとして流布されている。

マルクスの死後にその思想の変遷を踏まえ、
91年にエンゲルスが修正を加えた版が、今の私たちが読む『賃労働と資本』である。

「単純な労働力の生産費は、労働者の生存費と繁殖費ということになる。
この生存費と繁殖費との価格が、賃金を形づくる。決められた賃金は、最低賃金と呼ばれる」

「資本は賃労働を前提とし、賃労働は資本を前提とする。
両者は互いに制約し合い、両者は互いに生み出し合う」

初期の資本主義社会に対して、マルクスの指摘は鋭く正確である。

しかし社会構造が大きく変化した今となって、経済の本質的構造は同じでも、
階級対立という概念は、私たちの想像力では及ばなくなっている。
それぞれが複層的に入り乱れているのは、紛れもない事実である。

だからといってマルクスの提起した諸問題が、乗り越えられたとは考えられない。
経済を下部構造と看破し、文化などの上部構造への影響を説いたのもマルクスである。

レーニンからスターリンに引き継がれたロシア革命は、
国家社会主義へと変貌した果てに、ソビエト連邦の崩壊へ至ったが、
それはマルクスの存在理由を否定したことではない。

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