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2007年8月31日 (金)

叛逆天使

 神の寵愛を受けた大天使ルシファーが、紙に背いて敗れ去り堕天使となる。これが悪魔の祖という説もある。天地創造した神でさえ反旗を翻すのを防げず、信頼厚い大天使さえ秩序を守り抜けなかった。古代から人の心には、邪なものが生まれてしまう。

 アダムとイブの知恵の木の実、パンドラの箱、バベルの塔にノアの箱船。人はいつも試され、平穏な生活を捨て可能性に挑む。何が善で、何が悪なのか、すでに検証された例がいくつもあるのに、それでも心の奥底から湧き起こる思いを断ち切れない。

 「一杯の紅茶のために世界が滅んでも構わない」と、呟いたのはドストエフスキー。絞首台で縄に首をかけられ、そこで死刑中止の伝達。人の心に潜む悪意を抉りだし、世界中の読者が共感して魂を震わせた。文学に潜む毒は、しばしば私たちを酔わせる。

 私の心は清く澄んでない。嫉妬心、猜疑心、慢心、さまざまな煩悩に捕らわれてる。若い頃ほど脂ぎってはいないけど、それでも欲もあれば狡さもある。その事実を素直に認め、どう生きれば自分自身に納得できるのか、常に問い直しながら歳月を重ねてる。

 ときどき思うのは、ルシファーの決断。世界中を敵に回しても、信じる道を行くだけの気概が、私の裡に遺されているだろうか。その必要はないと思うのは、牙を抜かれてしまったからなのか。感傷に過ぎないのかもしれないが、思えば遠くへ来たものだ。

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